「シチリア・サマー」 ~現在公開中のイタリア映画 PART 2~

よみもの
引用元:「シチリア・サマー」公式HP

 

 前回お知らせしたとおり、今月のエンタメレビューは最新のイタリア映画特集! 後編はイタリア最大規模のLGBTI非営利団体“ARCIGAY(アルチゲイ)”が設立される契機となった1980年の殺人事件に基づく作品「シチリア・サマー」です。「蟻の王」に負けず劣らず素晴らしい作品でした。個人的にはこちらのほうが好きかも。

シチリアの美しい景色と命がけの純愛

引用元:配給会社 松竹洋画 公式X

 舞台は1982年のイタリア・シチリア島。父親を知らずに育ったジャンニは母親の恋人が営むバイクの整備工場で働いています。ある日、顧客にバイクを届けに行く途中で接触事故を起こしてしまいます。相手は花火職人の父を持つニーノという少年でした。彼はジャン二を介抱し、万が一のために自分の住所を記したメモを渡します。翌日、母親の恋人に嫌気がさして整備工場を飛び出したジャンニは、職を求めてニーノの家へ。二人はすぐに惹かれ合いますが、その関係は周囲の知るところとなり・・・

 「蟻の王」や「大いなる自由」では同性愛者が法律で裁かれる理不尽さが描かれていましたが、この「シチリア・サマー」ではティーンエイジャーの純愛が市井の人々の手で無残に手折られます。差別は人を殺すのだということを改めて感じました。

 同性愛に不寛容なイタリアの風潮は1980年代になっても変わらなかったようです。特にシチリアは本土と海峡で隔てられているせいか、家族やコミュニティーの結びつきが強く、そのぶん異質な人を排除する傾向が強いのかもしれません。加えて強烈なマッチョイズムも感じさせます。

 そのためゲイであることが知られているジャン二への嫌がらせはリンチと呼びたくなるほど激しいものです。ジャンニは毅然と振る舞っていても、まだ17歳。内心どんなに怖かったでしょう。

 対するニーノは大家族の中でのびのびと育っていました。父親や伯父は働き者で素直な彼を可愛がっていましたが、ジャン二との仲を知るや態度を豹変させます。その様子は大人たちが少年の無垢な心に“異常者”という意識を植えつけているかのよう。怒り狂ってジャンニを性犯罪者呼ばわりするニーノの家族は、その差別性に気づいていません。悲しいけれど、当時はそれが“普通”だったんですね。

 史実では事件が起きたのは1980年10月ですが、作品では設定を1982年の夏に変えています。1982年の夏といえばイタリアがサッカーのワールドカップで優勝した年。みんなでテレビを囲んでワールドカップの中継に熱狂するシーンが何度も登場し、家族や地域のつながりの深さと、孤立する若い二人の違いを際立たせています。強固なコミュニティーがはらむ排他性を観客に気づかせるような うまい演出だと思いました。

 島の男たちは常に複数でつるんでいる印象で、何かというと男であることを強調し、“そうではない”二人に嫌がらせを繰り返します。ニーノの伯父にいたっては、チンピラを雇ってジャン二を襲わせるという姑息さです。彼らが求める“男らしさ”って何なんでしょうね。

 愛し合う二人があまりにもまぶしくて、シチリア島の景色があまりにも美しくて、それなのに島民の仕打ちがあまりにも陰湿で・・・ 結末を知ったうえで観たのですが、感情の行き場がなくて困りました。ただし愛を貫くことを決めた二人に向けられる島民の冷たい視線の中にそっと温かい視線を送る男たちがいたことに、わずかな希望を見た思いです。

 最後に本作のパンフレットについて。ノスタルジックなデザインの表紙が目を引きます。写真も豊富で、モデルとなった事件の経緯なども載っているので、買って損はないと思います。(私は関係者ではありません・・・)

こだわりを感じる美しいパンフレット(筆者撮影)

 

2022年製作/イタリア
原題:Stranizza d’Amuri
配給:松竹

小泉真祐

小泉真祐

字幕翻訳家。会社員を経て映像翻訳の道へ。担当作品に「靴ひも」「スワン・ソング」「LAW & ORDER : 性犯罪特捜班」など。

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