引用元:「ステージ・マザー」公式サイト
ボニー・タイラーの1984年のヒット曲「ヒーロー(Holding Out for a Hero)」をご存じですか? 日本では麻倉未稀さんのカバーがドラマ主題歌として大ヒットしました。この曲が近年、複数の映画で立て続けに使用されているという記事を目にしました。(*1) ゲイの水球チームの奮闘を描いた「シャイニー・シュリンプス!」でも使われていましたね。そんなボニー・タイラーの最大のヒット曲「愛のかげり(Total Eclipse of the Heart)」をフィーチャーした映画「ステージ・マザー」をご紹介します。
ドラァグクイーンの息子が遺したゲイバーを母親が相続!
ストーリーは疎遠のまま急逝したゲイの息子が経営していたバーを相続した主婦メイベリンが店の黒字化を目指し、“ステージ・マザー”としてドラァグショーを盛り立てるというものです。息子リッキーは両親にゲイであることを認めてもらうまでは、とパートナーのネイサンとの結婚を先延ばししたまま亡くなりました。そのためネイサンは店やアパートを相続できず、両親に相続権が回ってきたのです。
リッキーの女友達 シエラの部屋に居候しながらバーの再建に乗り出したメイベリンは、ネイサンやドラァグクイーンたちとの交流を通して性的マイノリティーへの偏見をなくしていきます。変化はそれだけではありません。地元の教会で聖歌隊を指導している経験を生かして本格的コーラスを教えたり、内装や衣装にこだわりを見せたりと演出能力も開花させます。リッキーも生前ドラァグクイーンとしてショーに出ていたので、エンターテイナーとしての血は母譲りだったんですね。
バーに関わって以降、輝きを増していくメイベリン。夫に逆らわない貞淑な妻という役割から解放されたからではないでしょうか。それを強く感じさせるのはシエラを暴力的なボーイフレンドから救い出すシーンです。長年のうっぷんを晴らすかのように男を罵倒する姿は拍手喝采ものです。実はメイベリンもかなり毒舌で、ずけずけ物を言うシエラやドラァグクイーンに引けを取りません。
余談ですが、原語でウィットに富んだセリフがあっても、そのまま日本語に訳すと野暮ったくなる場合があります。私も限られた字数の中でいかに適切な日本語を当てはめるか毎回苦労しますが、本作の字幕はセンスがあり勉強になりました。
さて、劇中で印象的に使われるのが前述の「愛のかげり」です。1980年代の洋楽のミュージックビデオ(MV)はクリエーターのこだわりが強いのか、楽曲の世界観や歌詞の内容とかけ離れたものが多く、「愛のかげり」はその最たるものでした。男子校の教師に扮したボニー・タイラーが、踊る半裸の生徒たちに翻弄される・・・という内容。そのMVの一部がドラァグショーとして再現されるのですが、ドラマチックな曲調とも相まって感動的でさえありました。“あのシュールなMVが40年を経て昇華した!” と、かつての洋楽ファンはニンマリしちゃうかもしれません。
2023年9月のネットニュース(*2)によると、「愛のかげり」のMVのYouTube再生回数が10億回を突破したそうです。ボニーの迫力あるハスキーボイスや曲のよさもさることながら、あのMVが癖になっている人も多かったりして。もちろん私もその1人です。
Bollie Tyler – Total Eclipse of the Heart (Official Video)
*1 『最近よく聴くあの曲!「Holding Out for a Hero」はなぜ愛される?』SCREEN ONLINE 2023.7.24
*2 『ボニー・タイラー、1983年のヒット曲「愛のかげり」MV再生数が10億回を突破』
billboard JAPAN 2023.9.24
2020年製作/カナダ
原題:Stage Mother
配給:REGENTS