引用元:「パレードへようこそ」公式X
LGBT.jp®︎で書き始めたエンタメレビューも回を重ねてきました。慣れないながらも楽しく書かせてもらっている反面、実は取り上げる作品を探すのが大変だったりもします。
ある日の編集会議で「そろそろネタ切れです!」と泣きついたところ、映画好きな複数のメンバーがいくつか作品を推薦してくれました。その1本をご紹介します。実話を基にしたイギリス映画「パレードへようこそ」です。
LGBTと炭鉱町の人々のすてきな連帯
1984年6月30日のロンドン。ゲイの権利を訴えるパレード“ゲイ・プライド”に行こうとしていたマークは、ニュースで炭鉱夫のストライキを知ります。それはサッチャー首相が発表した炭鉱閉鎖案に対する抗議のストでした。マークはすぐさま「炭鉱夫支援同性愛者の会(LGSM)」を立ち上げ募金活動を開始。その熱意はやがてディライスという小さな炭鉱の人々を動かします。ゲイと炭鉱夫という両極端なグループの1年間の葛藤と成長と連帯を描いた群像劇です。
マークはゲイの権利だけを主張するのではなく、労働者や女性の権利も地続きだと感じています。炭鉱夫のストも同じ少数者として他人事ではありません。そのせいでしょうか。彼の言葉には内輪受けにとどまらない普遍性があるように感じました。
しかし保守的な炭鉱労働組合はゲイからの支援を拒みます。その中で唯一支援を受け入れたのがディライス炭鉱でした。炭鉱の代表者ダイがゲイバーのステージに引っ張り出され、感謝を伝えるシーンがあります。炭鉱夫がゲイを嫌うように、ゲイの炭鉱夫に対するイメージもよくありません。しかし不器用ながらも誠実な彼の言葉はゲイの心をつかみ、支援の輪が広がっていくのです。
一方、LGSMのメンバーは警察によるストの取り締まりに正当性がないことをディライスの人々に教えます。知識を得たことで彼らは猛然と公権力に立ち向かい、ゲイへの偏見も薄れていく・・・ なんてすてきな相乗効果!
私は言葉と知識の大切さを改めて感じました。言葉は人を刺す凶器にも、人々をつなぐ接着剤にもなるんですよね。知識は相手を理解するツールになるし、闘いの武器にもなります。
笑っちゃったのは「ゲイと親しくすると誤解される」と言う炭鉱夫が「あんたがそんなにモテる男だと思う?」とバッサリ切って捨てられるシーン。これって“ゲイあるある”かもしれません。でも小さな気づきって本当に大事です。
闘いは真剣ですが登場人物たちは常にユーモアを忘れません。作品を観ていて、ロンドンに住む私の友人が「イギリスでは政治に関心を持つことは当然で、それをセンスよく語れるかが大事」と言っていたことを思い出しました。
物語のクライマックスは1985年のゲイ・プライドのシーンです。パレードに参加したディライス炭鉱の面々。そこには組合の書記クリフの姿もありました。物静かで、心の内をさらけ出すことのなかった彼が見せる慎ましい笑顔がすてきです。人生の終盤に自分を解放し、新たな仲間を見つけたクリフを祝福したくなりました。
1984年のパレードとの対比も印象的です。規模拡大に従い、本来の目的が変わってしまうという問いかけに感じましたが、皆さんはどうご覧になりますか?
最後に二つほどプチ情報を。近年は英語圏の作品であれば、原題のカタカナ表記を邦題にするケースが大半ですが、本作は違います。原題の「Pride(プライド)」が、当時人気を博していた格闘技イベントと混同される恐れがあったため「パレードへようこそ」になったそうです。配給会社の苦労がしのばれますね。
両親に内緒でLGSMに参加し、たくましく成長していくジョーを演じたジョージ・マッケイは今や注目の若手俳優。最新作「Femme(原題)」では、自分がゲイであることを隠して、ゲイへのヘイトクライムを続ける若者を演じています。ぜひ日本でも観たいですね。なんなら字幕翻訳を担当したい(笑)
2014年製作/イギリス
原題:Pride
配給:セテラ・インターナショナル