「プリシラ」 ~ドラァグクイーンの毒気を浴びよう!~

よみもの
引用元:The Adventures of Priscilla,Queen of the Desert – Official Trailer

 

 以前、ドラァグショーを描いた「ステージ・マザー」を取り上げました。あの作品で主人公は生歌でのパフォーマンスにこだわっていましたが、ドラァグショーの王道はリップシンクかもしれません。つまりシンガーの歌声に合わせて口を動かす“口パク”です。

 ただしドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダさんの言葉を借りるなら、「歌姫たちの息遣いやビブラート、歌声に込めた想いや世界観までをも表現しきることが求められる非常に難しい芸」です。(*1) そんなパフォーマンスを堪能できるのがオーストラリア映画「プリシラ」です。

音楽も衣装も最高! ドラァグクイーンのロードムービー

 シドニーに住むドラァグクイーンのミッチにステージの依頼が舞い込みます。場所は砂漠の中の田舎町アリススプリングにあるホテルです。彼はベテランのバーナデットと若手のフェリシアを誘い、“プリシラ”と名づけたバスで旅に出ます。

引用元:The Adventures of Priscilla,Queen of the Desert – Official Trailer

 若い恋人を亡くして悲しみに暮れるバーナデット、実は結婚しているミッチ、イケイケでデリカシーのないフェリシアという世代も性格も違う三人の旅はハプニングの連続です。酸いも甘いも知るバーナデットと、今が旬とばかりにはしゃぎまくるフェリシアは犬猿の仲。そんな二人を時に仲裁し、時に煽るのがミッチです。どこまでが本気で、どこまでが冗談か分からない彼らの毒舌合戦は必見で、特に互いをののしる時だけ本名(男性名)で呼び合うのがツボでした。

 ハプニングがありつつも賑やかに旅は進みますが、立ち寄った炭鉱町では差別や暴力に見舞われます。オーストラリアは今でこそゲイに優しい国として知られ、政府観光局のサイトにLGBTQIのための旅行ガイドが載るほどですが(*2)同性愛行為が違法だった時代もあり、全州で合法化されたのは1990年代後半だそうです。(*3)

 暴行を受けたフェリシアをバーナデットが「我々には都会しかないのよ。都会の壁がここにいる連中から守ってくれるんだわ」と慰めるシーンが性的マイノリティーの置かれた状況を言い表している気がしました。

 そんな重い空気を吹き飛ばすのが彼らのパフォーマンスです。選曲や衣装からメイク、表情にいたるまで絶品!「ゴー・ウェスト」「恋のサヴァイヴァル」「マンマ・ミーア」など、捨て曲がありません。独創的なコスチュームも素晴らしく、衣装を担当したリジー・ガーディナーはアカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞しました。

 気になった点を挙げるとすれば、ホテルの従業員が三人のショーを“Drag show”と呼ぶ際に、字幕が「オカマ・ショー」だったこと。当事者が自虐的に使っているわけでも、従業員が侮蔑する意図で言っているわけでもないので、現在なら「ドラァグショー」という字幕になるでしょう。日本で公開された1995年当時は、そこまでの問題意識はなかったのかもしれません。時の流れを感じます。

 最後に・・・ これから本作品をご覧になる方へ。
エンドクレジットが終わるまで油断しちゃダメですよ!!

 

*1 『ドリアン・ロロブリジーダのゆずれないもの』Hanako 2023.9.11
*2 『LGBTQIの人々がオーストラリアを旅する必須ガイド』オーストラリア政府観光局
*3 『性別変更で有休、外相はLGBT 同性愛は犯罪だったオーストラリアが変わった理由』
The Asahi Shinbun GLOBE 2023.6.27

 

1994年製作/オーストラリア
原題:The Adventures of Priscilla, Queen of the Desert
配給:ヘラルド・エース、日本ヘラルド映画

小泉真祐

小泉真祐

字幕翻訳家。会社員を経て映像翻訳の道へ。担当作品に「靴ひも」「スワン・ソング」「LAW & ORDER : 性犯罪特捜班」など。

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