引用元:「彼の見つめる先に」公式X
毎回エンタメレビューをご覧いただきありがとうございます。これまでアメリカやイギリス作品を紹介することが多かったので、今回は日本では珍しいブラジル映画をご紹介したいと思います。
珍しいといっても、私がほとんど見ていないだけかもしれません。その証拠にブラジル映画祭(2001~2015年)やラテンビート映画祭(2004年~)といった映画祭が開催され、いくつものブラジル映画が日本の観客に届けられています。今回取り上げる「彼の見つめる先に」は2015年のブラジル映画祭で上映されたのち、2018年に一般公開されました。
各国の映画祭でも絶賛された心温まるラブストーリー
サンパウロに住む高校生のレオは目が見えません。優しい両親との三人暮らしですが、過保護な親の干渉がうっとうしい年ごろです。下校時は幼なじみの女の子ジョヴァンナに送ってもらい、授業では点字用のタイプライターがノート代わり。そのことでクラスの悪ガキにいじめられる日々です。
ある日、ガブリエルという少年が転校してきます。彼は盲目のレオにも分け隔てなく接し、あっという間に親密になります。それまで姉のように世話を焼いていたジョヴァンナはレオを取られたみたいで面白くありません。実はレオに恋しているんです。
屈託のないガブリエルはレオの世界を広げていきます。クラシックしか聴かないレオにポップスを教えたり(ここで彼が聴かせるのがスコットランドのバンド、ベル&セバスチャンの「トゥ・マッチ・ラヴ(There’s Too Much Love)」という超名曲!)、ダンスを教えたり、自転車の二人乗りをしたり。目の見えないレオを映画に誘うという痛恨のミスを犯したりもしますが、そんな時は映画館でレオに内容を説明してあげます。二人が恋に落ちるのに時間はかかりません。しかしレオは初めての感情に戸惑い、気まずい雰囲気に・・・
三角関係、セックスへの興味、自立心の芽生え、横やりを入れてくる女子、誤解、いじめ、キャンプ・・・ といった青春ドラマの定番要素を網羅しつつ物語は進みます。“甘酸っぱい”という表現がこれほど似合う映画はそうそうありません。
監督のダニエル・ヒベイロは作品の構想を練る際、友人たちに聞き取り調査を行ったそうです。質問の内容は「初恋の相手のどこに惹かれたのか」 最も多い回答は、ずばり“容姿”でした。その結果を受け、視覚的情報を得られない盲目の人はどのように相手に惹かれ、自らのセクシュアリティーを定義するのか興味を持ったと語っています。(*1) レオを目の見えない設定にしたのは、こういう理由だったんですね。
そもそも“男らしさ”や“女らしさ”の定義も視覚的情報によるところが大きい気がします。これも一種の先入観なんだろうな・・・と少し脱線して考えてしまいました。
本作の英語タイトルは「The Way He Looks」です。直訳すると“彼が見る様子”とか“彼の表情”といったニュアンスでしょうか。セクシュアリティーを問わず、恋するティーンエイジャーなら自分が相手にどう見られているか気になりますよね。自分の容姿さえ知らないレオは、なおさらです。そんな彼の心情をうまく表したタイトルだと思いました。
「コーダ あいのうた」のレビューでバリアフリー字幕について触れましたが、ガブリエルが映画の内容をレオに解説するシーンは音声ガイドを連想させます。現在では自動で映画の音を認識し、適切なタイミングで音声ガイドが再生されるアプリが普及されつつあるようです。ただし2019年を例に取ると、公開作品1278本に対し、アプリ対応の作品は82本。洋画はわずか2本でした。(*2) こうした鑑賞サポートについて私も注目していきたいと思います。
*1 『ブラジル映画「彼の見つめる先に」、一般公開はじまる』 MEGA BRAZIL 2018.3.11
*2 『視覚障害者はどうやって映画鑑賞をするの?』 公益財団法人 日本ケアフィット共育機構 2020.7.7
2014年製作/ブラジル
原題:Hoje Eu Quero Voltar Sozinho
配給:デジタルSKIPステーション、アーク・フィルムズ