舞台『インヘリタンス -継承-』を観た!

よみもの
『インヘリタンス -継承-』舞台写真より 撮影:引地信彦

 

 今や“演劇の町”として広く認知されている池袋。その中心的存在ともいえる東京芸術劇場 プレイハウスで上演中の舞台『インヘリタンス -継承-』を観劇しました。

 本公演は映画『赤と白とロイヤルブルー』の監督としても知られるマシュー・ロペス氏がイギリスの小説家E・M・フォースターの『ハワーズ・エンド』に着想を得て書き上げた戯曲の日本人キャストによる舞台化で、熊林弘高氏が演出を手がけました。オリジナル版はロンドンでの初演を経てブロードウェーに進出し、トニー賞なども受賞しています。

 2015~2018年のニューヨークを中心に、AIDSや差別などゲイコミュニティーが対峙してきた歴史を3世代のゲイの姿を通して浮かび上がらせた本作は、前・後編あわせて6時間半(!)という大作です。アジア圏では初の上演とのこと。

 私は12日に前編、14日に後編を観劇しましたが、12日の上演後にはマシュー・ロペス氏のトークショーというスペシャルなギフト付き! 今回はこの舞台を紹介したいと思います。なお 本公演にはグローバルファンド日本委員会と日本国際交流センターが特別後援として名を連ねています。

筆者撮影

 

セリフの洪水! 合計6時間半に及ぶ一大叙事詩

 まず目に入るのが無駄な装飾のないシンプルな舞台セット。その中央に大きなスクリーンが張ってあり、そこに映像や文字が映し出され、状況説明や場面転換などの役割を果たしつつ、時に驚くほどの演出効果も上げています。

撮影:引地信彦

 2015年のニューヨーク。物語は30代のエリックとトビー、60代のウォルターとヘンリーという2組のカップルを軸に進みます。エリックと作家の卵トビーが暮らす部屋は同世代のゲイたちが集い、芸術から政治に至るまで語り合うサロン的な空間。時に初老のウォルターも加わり、初期のAIDS禍の記憶などを若い世代に語って聞かせます。

 ある日 ふとしたことから役者志望のアダムが部屋を訪れます。若く美しい若者の登場に色めき立つ男たち。やがてトビーの作品が舞台化されることになり、その主役にアダムが抜擢されます。そのことはエリックとトビーの関係に変化をもたらし、ウォルターとヘンリーや仲間たちにも変化が派生していきます。

 ほどなくウォルターが病死したとの知らせが入ります。彼は自身が所有する田舎の家をエリックに譲るという遺言を残していましたが、ヘンリーはそれを秘密にしました。実は1989年からウォルターがAIDSで死期の近づいた友人たちを看取り続けてきた家だったのです。

 時は流れ、エリックはある人物を連れてこの家を訪れます。彼らを迎えたのは家の管理を任されているマーガレットという年老いた女性でした。

 6時間超えの大作とあって、とにかくセリフの洪水。そこから浮かび上がってくるのは、性的マイノリティーひとりひとりに語るべき物語があるということです。同じゲイ男性でも育った時代や環境の違いにより物事のとらえ方に差があるのは当然です。

 例えばヘンリーは超リッチな共和党支持者でトランプに選挙資金を寄付するほどの“保守派”。若い世代のエリックの仲間たちから見れば悪役です。しかしヘンリーの物語にも共感できる部分があり、意見の異なる者を敵認定するだけでは何も得られません。「我々の世代にゲイはいない」 そう自分に言い聞かせなければ生きていけなかったヘンリー世代の葛藤を理解しようとするエリックは分断をつなぎとめる接着剤のような存在で、芝居が終わるころにはウォルターがなぜ彼に家を託したのか腑に落ちます。

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小泉真祐

小泉真祐

字幕翻訳家。会社員を経て映像翻訳の道へ。担当作品に「靴ひも」「スワン・ソング」「LAW & ORDER : 性犯罪特捜班」など。

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