引用元:「ストーンウォール」公式X
以前 当サイトにLGBTパレード起源の地として知られるバー“ストーンウォール・イン”の探訪記が掲載されました。記事を興味深く読んでいるうちに、ストーンウォールの反乱を描いた映画があったことを思い出しました。検索した結果、見つかりましたよ! 2015年のアメリカ映画「ストーンウォール」です。今回はこちらの作品を取り上げましょう。
監督はアメリカ版「GODZILLA(ゴジラ)」で知られるドイツ出身のローランド・エメリッヒです。彼はゲイであることを公言しており、LGBT関連事業への寄付も行っています。
LGBTQ当事者が抗議! 論争を招いた いわくつきの作品
時は1969年、米連邦政府は政府機関に対し同性愛者の雇用を禁止していました。さらに同性愛者は精神病疾患と見なされ、治療の対象だったのです。(ちなみに“治療”で行われる非人道的な電気ショックについては「蟻の王」のレビューでも取り上げています。)
コロンビア大学の新入生ダニーが故郷のインディアナからニューヨークのクリストファー・ストリートにやってくるところから物語は始まります。彼はゲイであることが発覚し、教師である厳格な父親から逃げるように家を出てきたのです。街に着いた彼が最初に目にしたのはレイという男娼とその仲間たちでした。それまでの生活環境との違いに戸惑いながらも、所持金の底がついたダニーはレイたちと共同生活を始めます。そんなストリート・チルドレンともいうべきゲイの若者のたまり場こそ、バー “ストーンウォール・イン”でした。
当時 性的マイノリティーは店で飲むことも集会を開くことも法律で禁じられていたため、ストーンウォール・インはたびたび警察のガサ入れに遭っていました。それでも店がレイたちを排除しないことには ある思惑があるのですが、そこは本編を観ていただけたらと思います。
ストーンウォール・インに足を踏み入れたダニーは裕福な人権活動家トレバーに口説かれます。彼も同性愛者ですが、その日暮らしを送っているレイたちのような若いゲイを快く思っていませんでした。知的で人権意識の高いトレバーに惹かれたダニーは、些細なことでレイと口論になったのを機に彼の家に移り住みます。しかしそこも安住の地ではありませんでした。トレバーの浮気です。
そして運命の6月28日、ストーンウォール・インで警察による手荒なガサ入れが行われます。ダニーもその場に居合わせました。ニューヨーク生活に失望し、怒りにも似た感情を抱いていた彼は思わずレンガを握り・・・
ここまでのあらすじを読んで、“あれ?” と思った方が多いのではないでしょうか。そう、史実と違うんです。実際に反乱の口火を切ったのは黒人のマーシャ・P・ジョンソンさんと、プエルトリコ系のシルビア・リベラさん。彼らをモデルにしたと思われる人物も登場しますが、どう見ても脇役です。主人公はあくまでもダニー。この架空のイケメン白人を主人公に据えたことで、公開されるや “ホワイトウォッシュ”としてLGBTQ当事者などから激しく批判されました。ホワイトウォッシュとは、映画や演劇などを製作する際、作品の原作などでは有色人種の役柄を白人俳優に演じさせることを指し、「不都合な事実を美化する」といった意味もあります。
確かにストーンウォールの反乱を描いたと言いつつ、ダニーの成長物語を観た気分にさせられますし、予備知識のない観客に誤った情報を伝えてしまう恐れもあります。ではまったく観る価値のない映画かといえば、個人的にはそうでもない気がしました。
主人公を保守的な地域の出身者にしたことで、結果的に当時の白人保守層が性的マイノリティーをどうとらえていたかが明確に伝わった気がします。ダニーの学校ではゲイを“変質者”として断罪する道徳教育が行われており、生徒たちはゲイを吸血鬼に例えて面白がります。(数年前に日本でもそんな映画が作られましたね。感覚が遅れているというか、止まっているというか・・・)そんな地域でゲイの若者が息を殺すように生きなければならないことに胸が痛みました。
またニューヨークの場面では、貧しいゲイの若者が富や権力を持つゲイに搾取される構造や人権活動家の偽善性、あえて女装のゲイや男装のレズビアンを狙って逮捕する警察の差別意識などが描かれます。それらはダニーという“よそ者”の目を通したからこそ、異様さが際立ったのではないでしょうか。
というわけで史実の映画化ではなく、あくまでも史実に着想を得たフィクション、学びのある娯楽作として観るほうがいいのかな・・・という気がしました。
2015年製作/アメリカ
原題:Stonewall
配給:アットエンタテインメント