「To Leslie トゥ・レスリー」~酔いどれ女と一粒の宝石~

よみもの
引用元:「To Leslie トゥ・レスリー」公式サイト

 

 3月に行われた第95回アカデミー賞は、
・ブレンダン・フレイザー、ジェイミー・リー・カーティス、
 キー・ホイ・クァンなどハリウッドの浮き沈みを経験した俳優の受賞と感動スピーチ
・インド映画「RRR」のパフォーマンス
・プレゼンターのジョン・トラボルタが悲しみで声を詰まらせた追悼コーナー
など久しぶりに見応えある授賞式でした。その授賞式に白いレースのドレス&黒のライダースジャケットという個性的なファッションで出席した女優がいました。その人の名は主演女優賞候補のアンドレア・ライズボロー。彼女のノミネート対象となったのが今回紹介する「トゥ・レスリー」です。

アンドレア・ライズボロー 渾身の演技!

引用元:「To Leslie トゥ・レスリー」公式X

 主人公のレスリーは金や男にだらしないアルコール依存症のシングルマザー。宝くじで大金を得たことでかえって自堕落な生活に拍車がかかり、賞金を使い果たしたあげく、全財産を失って安モーテル暮らし。そんな彼女が再起を図る物語です。

 彼女はかつて手放した息子ジェームズの家に転がり込みます。ちなみにジェームズを演じるのは若手俳優オーウェン・ティーグ。ちょっとおサルさんっぽい顔がチャーミングで、時折見せる寂しげな目が魅力的です。ジェームズはレスリーを憎みながらも放っておけず世話を焼くのですが、彼女はけなげな息子をも裏切ります。

 救いようのないクズっぷり! でも物語が進むにつれ “根っからのダメ人間じゃないのかも・・・”なんて思えてしまうキャラクターです。ふとした表情から彼女が味わってきた孤独と苦痛が垣間見える気がしたのです。

 “一度 落ち始めたら人は意外と簡単にどん底まで行ってしまうのかな” “いや、自分だけは違う” と自問自答しつつ、いつの間にかレスリーを叱咤激励している自分がいました。

 更生への渇望と諦めの間で揺れ動くレスリーを破滅寸前で踏みとどまらせたのは、心の奥底に眠る一粒の宝石。それはジェームズの存在でした。それに気づいた時、彼女は受け身ではなく自分から救いの手を求めます。

 周囲が手を差し伸べても、本人にガッチリつかむ意志がないとすれ違ってしまうんですよね。そこからラストに向かっての展開は涙、涙・・・ もしかしたらレスリーはまた失敗してしまうかもしれないけど、それでも人は立ち直れる。そんな前向きな気分で劇場をあとにしました。

 でも実際 自分の周りにこんな人がいたら、嫌だろうなと思いながら・・・(笑)

 

2022年製作/アメリカ
原題:To Leslie
配給:KADOKAWA

小泉真祐

小泉真祐

字幕翻訳家。会社員を経て映像翻訳の道へ。担当作品に「靴ひも」「スワン・ソング」「LAW & ORDER : 性犯罪特捜班」など。

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