トランス女性の性別変更 「手術なし」で認める決定 広島高裁

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写真上 広島高等裁判所(裁判所HPより)

性同一性障害特例法では、性別変更の際に、生殖能力がないこと(不妊化要件)と、変更する性別の性器に似た外観を備えていること(外観要件)が要件とされ、事実上性別適合手術を受けることが必須となっていましたが、昨年10月25日、最高裁大法廷が不妊化要件を違憲と判断し、外観要件については高裁で審理が尽くされていないとして審理を高裁に差し戻していました。その広島高裁が今月10日、外観要件について「憲法違反の疑いがあると言わざるを得ない」として申立人の性別変更を認めました。

性自認に従った法令上の取り扱い受けることは重要な法的利益

申立人のトランス女性は、性同一性障害と診断され、女性として社会生活を送ってきました。最高裁は昨年の判決の中で、不妊化要件について「自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由が、人格的生存に関わる重要な権利として保障されていることは明らか」だとして、「性同一性障害者がその性自認に従った法令上の取り扱いを受けることは、(中略)個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益というべきである」「治療として生殖腺除去手術を必要としない性同一性障害者に対して、手術を受けることを余儀なくさせるのは身体への侵襲を受けない自由を制約するもので(中略)必要かつ合理的なものということができない限り、許されないというべきである」と述べ、違憲判断を示しました。

広島高裁「手術なしでも外観要件は満たされる」

一方、審理が尽くされていないとして差し戻されていた外観要件について広島高裁(倉地真寿美裁判長)は10日、「公衆浴場での混乱の回避などが目的だ」などとして正当性を認めましたが、「手術が常に必要ならば体を傷つけられない権利を放棄して手術を受けるか、性自認に従った法的な扱いを受ける利益を放棄するかの二者択一を迫る過剰な制約を課し、憲法違反の疑いがあると言わざるを得ない」と指摘しました。さらに「手術が行われた場合に限らず、他者の目に触れたときに特段の疑問を感じないような状態で足りると解釈するのが相当だ」として、手術なしでも外観要件は満たされるという考え方を示し、申立人のトランス女性がホルモン治療で女性的な体になっていることなどから、性別変更を認めました。

トランス女性「願いがやっとかないました」

性別変更が認められたトランス女性は弁護士を通じて「もの心ついた時からの願いがやっとかないました。社会的に生きている性別と戸籍の性別のギャップによる生きにくさから解放されることを大変うれしく思います。これまで支えてくださったたくさんの方々に感謝したいと思います」とのコメントを出しました。

生きづらさや不利益をできるだけ少なくする視点で立法議論を

代理人の南和行弁護士は、「性別変更に必要な外観の要件について判断の枠組みを明確に示したので、各地の家庭裁判所での審判に影響がある。個別の事情から手術を受けられず、諦めていた人が申し立てをし易くなると思う。最高裁大法廷の決定以降、与野党ともに議論が始まったと聞いている。困っている人の生きづらさや不利益をできるだけ少なくするという視点で立法の議論をしてほしい」とコメントしています。

林官房長官「実務的な課題や対応を検討」

同日、判決について記者会見で聞かれた林官房長官は「国が当事者として関与しておらず、詳細を承知していないため、政府としてコメントは差し控える。関係省庁では昨年10月の性同一性障害特例法に関する最高裁判所の違憲決定を踏まえて、実務的な課題や対応などについて検討している。立法府とも十分に連携し、引き続き適切に対応していきたい」と答えています。

ホルモン療法受けられない当事者への課題も

また、高裁判決を受けて、社団法人「性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会」(LGBT法連合会)は翌日、「昨年10月の最高裁決定によって、トランスジェンダー男性については手術を受けなくとも法的な性別変更が実質的に可能となっていたが、今般の広島高裁決定により、トランスジェンダー女性についても、手術を受けずに法的な性別変更の道が開けた点は評価できる。ただし、最高裁決定の趣旨に鑑みて、いくつかの課題が残っている点も指摘できる」とした声明を出しました。
課題については、高裁判決が外観要件について「近しい外見を有していることでも足りるもの」としたことが、「身体への侵襲という観点などにおいて、最高裁の決定の趣旨、あるいはその個別意見の趣旨を損なっている部分も一部に見られ、身体の状況によってホルモン療法を受けることが不可能な当事者等も念頭に、今一度最高裁決定やその個別意見の趣旨を想起する必要があると当会は考える」と述べています。
なお、「今後の法改正に向けた議論によって、現在最高裁の決定を受けて、法的な性別変更が可能となっている者が、法改正によってその道が閉ざされるようなことがあるとすれば、これは容認することができない」と危惧し、「引き続き、性自認による差別によって、当事者の生活環境が損なわれ続ける状況を一歩でも改善させる取り組みを更に強め、奮闘し続ける所存である」としています。

参考
NHK

朝日新聞

読売新聞

LGBT法連合会

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