女性専用アプリの使用拒否されたトランス女性の訴えを豪裁判所が支持

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写真上 オーストラリア連邦裁判所

豪連邦裁判所(ロバート・ブロムウイッチ判事)は8月23日、トランスジェンダー女性のロクサーヌ・ディックルさんが、参加してから7か月後に突然アクセスを拒否されたとして、女性専用のソーシャルメディア・アプリ「ギグル・フォー・ガールズ」と運営会社のサル・グローヴァーCEOに対して損害賠償を求めていた訴訟で、賠償金1万豪ドル(約98万円)と裁判費用の支払いを命じました。
オーストラリアの連邦裁判所でジェンダーアイデンティティに基づく差別の訴えが審理されたのは初ということです。

利用拒否は豪差別禁止法に違反すると訴える

ディックルさんは、2017年から女性として生活し、性別再指定手術を受け、出生証明書などの公的書類はすべて女性に変更して女性の更衣室を使って女性のホッケーチームにも参加して「心の中では自分が女性であると感じている」と法廷で述べています。
ディックルさんは、「私が女性向けサービスを利用することは法的に認められた権利で、(利用拒否は)ジェンダーアイデンティティに基づく差別であり、運営者の行為はオーストラリアの差別禁止法に違反する」として、「ギグル・フォー・ガールズ」とCEOを訴えていました。

SNSで男性から執拗な嫌がらせを受けたCEOが開発したアプリ

「ギグル・フォー・ガールズ」はオーストラリア人女性のサル・グローヴァーCEOが個人で開発・運営している女性専用アプリで、かつてSNSで男性から執拗な嫌がらせを受けた経験から「女性が安全な空間で自身の経験を共有できるオンライン上の避難場所」として開発しました。男性が入ってこないようにするため、女性であることを証明する自撮り写真をアップロードし、AI顔認証を利用した性別認識ソフトによる写真査定を受けるシステムで、AI顔認証の正確率は94%で、女性と判定されたものの登場した人物がシスジェンダー女性でないと判断した場合、運営者が手動で削除しています。
ディックルさんは、このアプリに無事参加できましたが、7か月後に突然、資格を取り消されました。

アプリCEOはトランス排除的ラディカル・フェミニスト

グローヴァーCEOは、裁判で一貫してディックルさんをトランス女性と認めず、「トランス排除的ラディカル・フェミニスト(TERF)」を自称し、「性別を変えられる人間は1人もいない」との考えを持っています。グローヴァーCEOは裁判の弁護士費用をクラウドファンディングで募ろうとしましたが、既存のプラットフォームのほとんどから申請を拒否されたそうです。

豪はLGBTIQへの差別を法的に禁止

ブロムウィッチ判事は判決で、性は「変化しうるもので、必ずしも2つの要素で構成されているものではない」ということは判例で一貫して示されているとし、アプリ側の主張を退けました。オーストラリアでは2013年、性差別禁止法の対象に性的指向、性自認、インターセックスの状態による差別が追加されており、LGBTIQへの差別が法的に禁止されています。

トランス含む全ての女性が差別から保護されることを示す判決

ディックルさんは今回の判決について「これがトランスや多様なジェンダーの人々の癒しとなることを望みます。裁定は、すべての女性が差別から保護されることを示しています」と語っています。

トランス女性排除は差別と認めた判決が女性差別撤廃条約に影響

BBCによると、1979年に国連で採択された女性差別撤廃条約(CEDAW)は事実上、女性のための国際権利章典となっており、オーストラリアも批准しています。アプリ側の弁護団はCEDAWによって男女それぞれの空間を含む女性の権利を保護する義務が課せられていると主張していましたが、今回、トランス女性の排除は差別であると認めた判決は、「CEDAWを批准するブラジルやインド、南アフリカに至る189ヵ国すべてにとって、重要な意味を持つだろう」と指摘しています。

参考
BBC
The Guardian

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