米連邦議会議事堂と下院の建物内で、トランスジェンダーが女性トイレ設備の使用を禁止する決議が、トランスジェンダー追悼の日である水曜日(11月20日)に可決されました。
米連邦下院のマイク・ジョンソン議長(共和党)は20日、トランスジェンダー女性の議員が連邦議会議事堂の女性用トイレを使用することを禁止する法案を支持しました。ジョンソン議長はこの日の声明で、「女性には女性だけの空間が必要」だとし、トイレ使用をめぐる新規制は議事堂と下院のオフィスビルで実施可能だと述べました。
新規制は、更衣室やロッカールームなど、議事堂や下院のオフィス施設内にあるすべての、男女で分けられている設備に適用されます。下院議員には、それぞれ専用のトイレがあるほか、議会施設の一部にはユニセックスのトイレもあります。議事堂内の施設管理を担う下院議長には、トイレをめぐる方針を提示する権限があります。
初のトランスジェンダー公表下院議員の当選を受けて、共和党が決議提出
事の発端は、大統領選と同時に行われた下院選でサラ・マクブライドさん(民主党)が、トランスジェンダーであることを公表している初の連邦議員として当選したことを受け、ナンシー・メイス下院議員(共和党)が、女性用トイレの使用を禁止する決議案を提出したことでした。
マクブライドさんは声明で、自分は「トイレについて争うために」選挙で選ばれたわけではない、と述べる一方、「私はデラウェア州民のために闘い、一般家庭が直面するコストを下げるためにここにいる」とし、「この国が直面している本当の問題から目をそらそうとするこうした取り組みは、ここ数日、私を惑わせることはなかった」と語りました。
そして、ジョンソン下院議長による新規制に「たとえ自分は反対だとしても」、それに従うつもりだと付け加えました。
マクブライドさんは、24日のCBSニュースのインタビューでも「彼ら(共和党)が『トランス』という言葉を口にするたびに、彼らが右手で何をしているかを見てください。社会保障とメディケアを民営化することで、アメリカの労働者から金を巻き上げ、高齢者から金を巻き上げている様子を見てください」と語りました。
ジョン・フェッターマン上院議員(ペンシルヴェニア州)など、民主党の同僚議員の多くは、規制の変更をより厳しく非難しています。ジョン・フェッターマン議員は「誰かを落としめることを私に要求するのなら、私には失うことを恐れる仕事は1つもない」と、ソーシャルメディアに投稿しています。
穏健派の新人・メイス議員は共和党内保守派の批判に直面し、トランス批判の急先鋒に
決議が可決した20日、提出者のメイス議員は、すべての連邦政府施設内でトランスジェンダー女性が「女性のプライベートな空間」を使用するのを禁止する追加の決議案を提出しました。
2020年に初当選したメイス議員は、サウスカロライナ州の激戦区で穏健派の共和党員として選挙を戦いました。2021年の米紙ワシントン・エグザミナーの記事によると、メイス議員は「LGBTQの権利と平等を強く支持している」と述べていました。この記事は今も、公式ウェブサイトに掲載されています。
メイス議員は当時、「誰1人差別されるべきではない」と書いていました。人工妊娠中絶については穏健な立場で、避妊へのアクセスを全国に拡大することを推進しているとして、党内の社会的保守派からの批判に直面してきました。
こうしたことから、メイス議員の現在の行動と過去の発言に矛盾があるのではないかと問われると、ガブリエル・リプスキー(メイス議員の)広報担当は「私たちは同性婚を支持し、婚姻尊重法案について2度賛成票を投じた。女性の保護が差別だと考えるなら、そう考えるあなた方に問題がある」と述べ、連邦議会内でのトイレの使用をめぐる決議案を支持すると改めて表明しました。
トランプ大統領も初選挙での穏健な姿勢を共和党内の批判に直面し転換
ワシントンや各州議会の共和党は2年以上にわたり、トランスジェンダーをめぐる問題に焦点を当ててきました。これまでに未成年のジェンダー(性自認)関連手術へのアクセスが制限されたり、トランスジェンダー女性のアスリートの女性競技への出場が禁止されるなどしてきました。
2016年の米大統領選で、ドナルド・トランプ候補(当時)は、トランスジェンダーの生徒自身が「適切だと思う」トイレを使用するのが認められるべきだと発言しましたが、共和党内からの批判に直面し、その姿勢を転換させました。
追跡調査会(AdImpact)によると、今年の大統領選の最終段階では、トランプ候補と仲間の共和党員はトランスジェンダーの権利に反対することに注力し、関連広告に2億1500万ドル(約330億円)を費やしていました。
今年の大統領選で投票した約12万人を対象にしたAP通信の調査「VoteCast」によると、有権者の半数以上がトランスジェンダーの権利を支持する動きは「行き過ぎている」と回答しています。
ただ、トランスジェンダーをめぐる問題が実際にどの程度、有権者を投票に向かわせていたのかは不明です。複数の世論調査では、有権者はトランスジェンダー問題よりも経済や移民、民主主義、その他の重要な政策分野の方を優先的に考えていることが示されています。
参考 BBC