16922筆の署名を受け取る松村区議

当事者の言葉に「ああ、そうですか」と…

 小林さんらは本会議開会直前に松村議員に署名を手渡しました。松村議員は、署名を受け取る際「16,922筆の重みがわかりますか」との小林さんの問いかけに、首を傾げながら、「ああ、そうですか。真摯に受け止めます」とだけ答え、「署名を受け取ってどんな気持ちですか」との周囲からの問いかけには、「お答えできないので」と話すなど、残念ながら真摯な態度とは言えない状態でした。

当事者の国会議員はどう見る?

 男性同性愛者(ゲイ)であることをオープンにする石川大我参議院議員は「議員が議場で謝罪することは重い。差別を許さないとする多くの声が上がった成果ではないか。今後、議会での差別発言に対する抑止効果にもなると思う」と評価する一方、「2点だけの撤回だが、他にも事実誤認や実態と異なる発言など10カ所以上の問題点が指摘できる。こうした点も当事者の声を聞き、精査し撤回すべきではないか」と話します。

 また、石川参議はこう解説します。「『教育が同性愛に誘導する』というのは古くから私たち同性愛者を差別するときに使われてきた言説です。ハーヴェイミルク(注1)が活躍していたサンフランシスコでは、1978年、教育現場で同性愛者やその疑いのある教師をクビにできる条例(条例6)が提案されたことがあります。条例を提案した人たちの言い分は、『同性愛者は子供を作らない。なので、教育の場で子供を同性愛にリクルート(勧誘)するのだ。だから、同性愛者を教育現場から追放しよう。私たちの子供を同性愛者から守ろう』という差別的なものです」

「同性愛者こそ、教育で異性愛に”誘導”されている」

 「条例はミルクたち当事者の尽力により住民投票で否決されるのですが、こうした差別は世界中で続いています。教育で異性愛や同性愛に“誘導”出来ることはなく、むしろ、異性愛が当たり前の教育の中で生活せざるを得ない私たち同性愛者こそ、日々教育で異性愛に”誘導”されているとすら、言えると思います。また、異性愛も同性愛も優劣はなく、多様な性のひとつ、というのが今の常識です。松村議員の発言はこうした昔からの差別意識を受け継ぐもので看過できません。その後、ハーヴェイ・ミルクは同性愛に差別意識を持つ同僚議員に射殺されます。差別は人を殺すのだ、という自覚が松村議員には足りないと思います」

 結局、差別発言から約1ヶ月で謝罪、撤回に追い込まれた松村議員。言葉では謝罪、撤回しましたが、本心については疑問の残る結果となりました。当事者団体は松村議員との対話を検討したい、と話しています。当事者と対話をし、何が差別でどう傷つけたのか、そしてその回復のため台東区議会議員として何ができるのか、松村議員が考え行動することを期待したいと思います。(編集部)

注1)ハーヴェイ・ミルク(1930-1978)アメリカの政治家。LGBT権利活動家。ゲイであることを公表し、1977年にサンフランシスコの市議(市政執行委員)に公選で選ばれた。大都市では初めて。翌年78年11月に同僚議員に市長とともに射殺された。

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