引用元:配給会社 パンドラ 公式YouTube
皆さんはドキュメンタリー映画をご覧になりますか? 私は年に数本鑑賞しますし、過去にドキュメンタリー映画の字幕翻訳を担当したこともあります。
ドキュメンタリーはドラマのようにカットが目まぐるしく変わることが少ないので、観客がじっくり字幕を読めるように長めの秒数を取るなど、訳す際にはコツが必要です。調べ物も多くて大変だったりしますが、新しい分野の知識が増えるので、割と楽しんで作業できるんですよ。堅苦しい印象を持つ方もいるかもしれませんが、見応えある作品がたくさんあります。
今回取り上げる「ハーヴェイ・ミルク」もその1本で、第57回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した作品です。
勇気ある政治家の記録
ハーヴェイ・ミルクは米国カリフォルニア州サンフランシスコの市政執行委員で、同国で初めてゲイを公言して当選した政治家として知られています。彼の活動を関係者のインタビューを交えて追ったのが、この「ハーヴェイ・ミルク」です。ミルクの経歴や当選までの道のりは本編をご覧いただくとして、彼の議員活動で私が興味を持ったのは“提案6号”に対する反対運動です。これはカリフォルニア州のブリッグス上院議員が州民投票にかけた条例案で、同性愛者の教師や、彼らを支援する教師の解雇を可能にするものでした。
「両親の権利を守る」「虐待を防ぐために同性愛者を排除する」「子どもたちは同性愛者に狙われている」 これらが提案に賛成する人々の言い分です。可決確実と思われていた“提案6号”でしたが、ミルクたちの奮闘もあり大差で廃案になりました。
ここで45年後の日本を見てみましょう。9月に「偏向した教材や偏った指導があれば(子どもを)同性愛に誘導しかねない」と台東区議が発言しました。彼は「指導する教員によっては、同性婚や選択的夫婦別姓といった制度を認める世の中にしていかなければならないと、一方的な思想が生徒・児童に押し付けられる可能性があります」と“懸念”しているようです。
このような主張に対して45年前のミルクはこう反論しています。「私は異性愛者に囲まれて育ちました。テレビでも新聞でも異性愛の洪水です。それなのに、なぜ私は異性愛者でないのか」もう答えは出ている気がしますが、為政者の差別発言は減りません。数年前には「LGBTには生産性がない」と発言した国会議員もいましたっけ。
作品の中で印象的だったのはミルクの支持者がアジア系の夫婦にビラを配って支持を訴えるシーン。彼らの「一度差別を認めてしまうと、同じようなことが次々と起こるでしょう」という言葉に、夫婦がハッとした表情を見せるんです。そう、他人事じゃないんですよね。
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